前回のブログで引用した宮田秀明氏の「数値経営力学」は、文字どおりのデジタル数値で表現される事象を扱うものである。即ち、企業としては既知の「知」の領域である。これを「企業固有の知」として遺憾なく活用することは、重要であることは、言を待たない。
しかしながら、前回のブログで引用した2年前のブログ;『製造業の「知」の総力戦、どう戦うか-Ⅱ』で述べている様に、これからの日本の製造業のグローバル競争下の「知の総力戦」では、社内のデジタル化された既知の「企業固有の知」だけでは競争優位に立てない。
現実には、現場の『思いも寄らない』問題の遭遇に加え、今後のグローバル展開によって様々な予期しなかった問題も発生するであろう。これらの問題の原因を、実証実験により前倒しで突き止め、「企業固有の知」として獲得する能力が、未来の競争優位の条件となるであろう。
今回のブログのテーマは、社内で誰もが見過ごしていた問題への取り組みのプロセスについて、次に引用するホンダのケースから、勝ちパターンの「見える化」の手法を考察してみたい。
【勝つインテリジェンス】
勝ちパターンづくりのプロセスを「見える化」する クックパッドとホンダから学ぶ気づきの秘訣
http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_67835_495788_122
注)今回は、ホンダの記事のみを取り扱う。
記事の前段は、‘クックパット’のインターネットビジネスの内容で、市場参加者のアクセス・ログを活用したビジネスモデルの話である。
≪ホンダの記事の要約≫
勝ちパターンは未来の競争優位についての仮説であり、未来のことはデータを分析しても分からない。だから、勝ちパターンづくりには、よく考えて、やってみて、振り返り、気づきを得て、修正するプロセスが不可欠である。
・プロセスの「見える化」で効率的に気づきを得る
勝ちパターンづくりでは、気づきが大きな役割を果たす。気づきとは、それまで知らなかったことを知ること、つまり発見にほかならない。
よく考えることは必要だが、発見は「やってみる」ことでしか生まれない。だからといって、犬も歩けば棒に当たる式に、闇雲にやってみるのは無駄である。やってみて、気づきを得る効率的な方法があるはずだ。
今回はプロセスの「見える化」について、考えを深めたい。 気づきを得るために、是非述べておきたい重要なことがある。それは、既存の見方で推論するのではなく、あるがままの事実を観察することから始めるということだ。
・ホンダシビックの不具合問題
本田技研の久米是志元社長が書いた本の中に、マスキー法に適合した低公害エンジンを搭載したシビックに起こったエンジン不具合の話が出てくる。今から40年ほど前の話だが、示唆に富む話であるので紹介しておきたい。
不具合問題で日夜苦労していた久米氏は、既に引退していた藤沢武夫氏から、次のような助言を受ける。 「過去の失敗を底の底まで探ってみなさい。不正確でもいいから、そのとき自分は本当にどう思ったか、何を感じ何を考えたのか、何でもいいから思い出せるだけ思い出して、こころの底に溜まっている泥を一度正直にさらけ出して、その中を探ってごらん」(久米是志『「ひらめき」の設計図』(小学館)より引用)
久米氏は半信半疑で同僚たちとともに、自分の設計した所から発生した不具合現象を模造紙に書き出し、壁に張り出した。しかし、1週間経っても「これは」と思うことが見つからない。
・そんなことが起こるとは思わなかった
そんなとき、「そんなことが起こるとは思わなかった」という一文に目が留まる。そして、気づきを得る。ことのすべてはここから起こっているのではないか。予測を誤ったというより、そもそもそんなことが起きるという認識がなかったのではないか。 過去に発生した不具合現象を再発させないための関門はあった。しかし、従来の関門は予想外の不具合現象には役に立たない。
そこで、久米氏は考えた。経験しないことは分からないのだから、予想外の不具合現象を起こす可能性が高い使用環境を集めて、問題が起こるかどうかを実験すればいい。
「不具合現象は偶発的な使用環境で発生しているのであるから、それならば実市場から偶発的な使用環境を収集集約して、それを検証の関門に加えればよいはずです」(同上) こうして「市場実験モデル」と呼ぶ検証の関門が新たに設けられた。
・客観的反省と主体的反省
現実が仮説と異なる場合、過去の事実や自分の経験に基づくこれまでの見方(因果律)で推論を組み立て、その原因を探ろうとすることが多い。これを久米氏は「客観的反省」と呼ぶ。
前回、事後レビューで成果が上がらないのは、必要な記録が残されていないからだと書いた。それに加えて、これまでの見方で事後レビューを行なっていることも、成果が上がらない原因といえる。
予想外の現実に直面したときは、これまでの見方で推論するのではなく、あるがままの事実を観察して気づきを得て、これまでの見方を変える「主体的反省」が求められる。
「まず前提となるのは最初に自分たちの持っている知識や論理をいったんはすべて棄て去って白紙の状態から取りかかることです。最初にああではないか、こうではなかろうかという推理が入りこむとその後の展開を大きく狂わせる要因になりかねません。ことはすべて『思いも寄らぬこと』から起こっているのですから」(同上)
勝ちパターンづくりのプロセスを「見える化」できたとしても、これまでの見方にとらわれていると気づきは得られないということだ。 |
≪筆者コメント≫
この様にして、「市場実験モデル」と呼ぶ‘検証の関門’を強化しつつ、「企業固有の知」を獲得し、宮田秀明氏の「数値経営力学」を活用して、グローバル時代の『製造業の「知」の総力戦』を戦えばと、 思うのである。