日本は、アジアの「知のハブ」へと進化

世界経済危機から、抜け出そうと模索するなかで、前回の「技術・文化変換装置」に引き続き、「空間経済学」の視点から、日本は以前にも増して明るい未来に向けた構想力を必要としているとし、アジアを中心に危機後の新しい世界を展望し、日本の発展の方向を示唆する論説があり、これを紹介しながら、考えてみたいと思います。

日経新聞【経済教室】2010年1月5日;
《日本の活路 2010 危機の先へ-2》
≪日本、アジアの「知のハブ」に≫ [全員参加社会革新] 文化面の交流も双方向で
経済産業研究所長・甲南大教授 藤田昌久氏

<ポイント> 
ⅰ) 世界経済危機の底流に「輸送費」の低下
ⅱ) 成長アジア、市場や創造拠点の役割重要に


はじめに、「空間経済学」とは、多様な人間活動が近接立地して互いに補うことで生まれる集積力(生産性と創造性の向上)に注目し、都市、地域および国際間の空間経済システムのダイナミックな変遷を分析する経済学の新しい分野であると概説されていた。

この観点で、今回の危機の主たる要因を概観し、今後の世界経済のあるべきダイナミズムを想定し、アジア経済圏の向かうべき方向と、その下での日本は、アジアの「知のハブ」となるべしと説かれている。
上記の<ポイント>の各項目;ⅰ)~ⅱ)を以下に要約する。

ⅰ)今回の経済危機の背景をなす根幹は、モノ・ヒト・カネ・情報の国際移動に伴う広意の「輸送費」が過去半世紀で大幅に低減したことである。これは、ジェット機やコンテナー船に代表される輸送技術やインターネットの情報通信技術(ICT)の飛躍的発展、さらには自由貿易の伸展で実現した輸送費の低下で、特定産業が特定地域に集積し規模の経済を利用して低コストで大量生産し、世界の需要地へ低い輸送費で輸出することが可能となり、その結果、国境を越えた生産・交易・投資活動が飛躍的に伸び、世界経済全体が高度成長した。
特に過去30年、世界では2つの巨大な産業集積が形成された。まず、東アジアは、組立産業を中心に高度な生産ネットワークと産業集積を築き、世界の工場となった。一方、世界最大の経済力をもつ米国は、基軸通貨ドルの絶大な魅力に支えられ、世界最大の金融拠点・資産市場を形成した。しかし、この世界経済を牽引する「世界工場」と「世界最大の金融拠点」を双発エンジンとする90年代以降の急成長は、東アジアや産油諸国の膨大な経常黒字を米国へ還流させ、巨額の経常赤字を補い過剰消費を支えた。これは長期的には持続不可能で、結局、米国の住宅バブル崩壊とともに、グローバル経済危機を引き起こした。

ⅱ)現在、世界経済は小康状態にあるとは云え、予断を許さない。中長期的観点により、世界経済全体を持続可能な新たな均衡成長経路に向け、再構築を迫られている。即ち、米・欧・アジアそれぞれが独自の産業集積を新たに形成しつつ、市場競争と国際協調のもとで、発展して行くことが期待されている。
アジアでは、①グローバル不均衡の是正、②アジア経済の長期的発展、③「脱化石燃料社会」の実現といった3つの世界的課題に加え、日本にとっては、④世界最速で進む少子高齢化への対応も課題であり、注目すべきは、これらの課題のすべてが、アジアの持続的発展をどう実現していくかに大きく依存していることである。
アジアの発展の道筋
としては、「世界の工場」としての発展に加え、生活レベルの底上げを図り、世界からも魅力ある「世界の消費市場」へ、さらには「世界の創造拠点」として、米欧に比較しうる成熟した経済社会への発展を目指さなければならない。そして重要なのは、アジアが「世界の工場」から「知識創造社会」へ脱皮することである。但し、これは、国ごとの取り組みだけで東アジアを世界の知識創造拠点にすることは難しい。先端知識を欧米からうまく吸収し、それを改変・改善するだけではなく、今後は、知のフロンティアの開拓が求められる。これは、東アジア各国・地域の異なる歴史と文化を背景にした多様な「頭脳集団」からの相乗効果を最大限に生かすことで、はじめて実現できる。そのためには、現在の東アジア生産ネットワークの一層の深化と並行して、文化を含む幅広い分野でのアジア大の知の創造・交流のためのネットワークを構築し、世界に開かれたものにしなければならない。そして日本が主要なハブとしてアジアと共に成長するには、世界から多様な人材を吸収しつつ日本全体がイノベーションの場として集積力を高める必要がある。その要諦として、日本が本来得意とする‘全員参加型’のイノベーションを志向すべきであろう、と藤田先生が書かれている。

将に、この論文は、空間経済学の観点からみて、前回・前々回ブログと組み合わせ、日本が、「アジアの共生」を図るため、東京のもつ優位性を活用し、多様なアジアの『技術・文化変換装置』を機能させ、日本をアジアの「知のハブ」へ進化させる道筋を示したものである。

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