事例から学ぶ「企業文化資本」の勃興
今年の正月あけの新聞などの論説では、“21世紀の資本主義は、これまでの「全てをカネで換算」する資本主義の行き詰まりを修正し、これからは、「本物の価値」「目に見えない価値」という「カネ」を越えた価値観を付加してバランスを取ることにより、資本主義を進化させなければならない。いよいよ、日本の産業界はアジアに出て、この「資本主義の進化」を主導し、アジア経済圏のインフラ力を高める中核的存在とならなければならない。そのためには、‘日本本来の良さ’を認識し、それを広めるグローバル人材の育成が欠かせない。”とする論調で賑わった。
これらの論調を総括し、分りやすくまとめられた解説記事を見つけた。
(参照)お勧め記事;
立田博司のニッポンの本流と奔流;
10年1月12日 『「企業文化資本」の勃興と「産業資本」の低下』
この記事は、『お勧め記事』に掲載したので、この内容の言及は省略し、これ以外の正月あけの関連記事を借用し、具体的な事例の要約とポイント(要諦、注目すべき事柄)を以下に記載する。
01)日経 1月3日:ニッポン復活の10年 ②
《人材ハブ へ若者磨く》
菱刈事例の要約;鹿児島県伊佐市にある菱刈鉱山〈住友金属鉱山保有の金鉱山〉、日本有数の商業鉱山ではあるが、世界的に資源争奪が激化し、同社も海外権益を増やそうとしている。だが、資源メジャーの様に資金力で技術者を集めることはできない。そこで考えたのが、「菱刈は人づくりの場として20年間使う」戦略とした。菱刈を延命させ、世界に通用する日本流の技を育てる。技術者の卵は10人。英語、スペイン語をたたき込み海外へ送り出す。すでにアラスカの鉱山などで卒業生が腕を振っている。
ポイント;日本の強みは教育にある。企業も技術伝承や人材育成に手間を惜しまない。しかし、近年、日本からは傑出した起業家の輩出が途絶えているが、それは必ずしも人材不足を意味していない。日本の本来の競争力は、‘普通の人’の能力の高さにある。現場を知る有能な人材の輩出は、この日本流経営風土にあることを自覚し、人材育成に臨むべきである。
日本は、人を育てる力をどう保ち、高めていくかが課題である。アジアは人材争奪戦を繰り広げており、人の力が国の競争力にかかわる時代となっており、国境の内側でしのぎを削る一国経済の時代は過去のものとなった。人口が減る日本はなおさらである。
世界と共に人材を育てる戦術が必要であり、その中心にある企業の「育てる力」は日本の強さである。我が国に不足していたものがあるとすれば、若者が世界と切磋琢磨する土壌が必要である。海外企業も日本の人材に目を付けている。日本は、日本人のみならず、外国人も受け入れ育成し、その人材をグローバルに送り込み、循環させる「人材ハブ」となることを目指すべきである。
日本は良質な市場が大きいだけでなく、世界最高速の通信や交通などが簡単に手に入る極めて優れた環境にある。日本を起点に人材が世界に往来する――。そんな「人材ハブ」の回廊を開けないか。
世界に「日本人求む」と云わせたい。日本は、世界に人材を供給し、世界から人材を集める。そこで、新しい人材が生まれ、新しい発想で事業を興す。これから10年、日本にそんな人材還流の足がかりができれば、人口が縮んでも、未来は縮まない。将に、菱刈金山の事例は、金本位制から人材本位制への移行の先駆けである。
02)日経 1月3日:ニッポン復活の10年 ④
《インフラ力をアジアへ》
水処理事例の要約;神奈川県川崎市が32年ぶりに上下水道の「拡張」に携わる。市内ではなく、南へ7000km、豪州・ブルスペーン市ヘ、水道技術を輸出することになった。渇水に直面するブリスベーンはダムの貯水率はわずか25%であった。新たな宅地開発に当たって決めたのが、日本が持つ循環型水システムである。日本製プラントを採用し、その運営ノウハウを川崎市が提供することになった。
“川崎市での経験から貢献できることがたくさんある。”昨年11月、川崎市水道局工務部の2人のスタッフが現地に降り立った感想である。
・気候や住民の生活パターンを予測して取水と配水を無駄なく調節する。
・ダム湖周辺の緑地化などで、水質改善策。
・水道管の漏水を耳で聞き分ける48人のプロが育っている。
等々、自治体はノウハウの固まりである。
ポイント; 2025年に100兆円と云われる世界の水ビジネス、これまで、欧州の民間大手がプラント建設から運営まで請け負うのに、日本は海水淡水化技術など高い技術を持ちながら競り負けてきた。しかし、昨今では、官民が手を携える「チーム日本」は、北九州市は中国へ、大阪市はベトナムへと、他の自治体も動きだしている。
原発事例の要約;日本は過去10年、自国内で原発をつくり続けてきた唯一の先進国である。原発大国日本が地震国で磨いた技術は安全の補強剤である。ところが海外事業となると、国を挙げて原子力外交に駆け回るフランスや韓国に後れを取っている。世界は原発の建設ラッシュ、将来構想分を含めれば、稼動中の400基強が倍増する。
12月、ベトナム首相が日本経団連との会合で、“原発大国である日本の企業連合に期待したい”と、原発導入を決めたばかりの同国は、技術力と運営、資金や人材育成まで、日本の総合力に熱い視線を送った。日本の企業連合に期待されているのだ。
ポイント;私の推察では、日本の原子力3社がお互いに競り合い、ベトナム首相は困惑しての発言とも見受けられる。日本メーカは過去、国内の電力会社を客先として競い合ってきたため、アジアの新興国相手のインフラ事業の対応には不慣れで、国内の延長で3社競り合って対応したのではないかと思われる。この問題は、電力以外も同じ見方がされる共通問題である。これからは新興国ユーザの立場に立って、新たな企業連合の仕組みを確立しなければならない。
東大教授の田中知氏が、「内向き志向を捨てて‘オール日本’で海外に貢献することが、国内の技術向上や人材育成つながる循環を生む。」とコメントされ、是非ともこれからの日本は、「企業文化資本」の時代に向け、人材中心を念頭にひと皮むけなければならない。
交通システム・他公共インフラ事例の要約;
日本の交通システムは、海岸線と山地の入り組む国土で、改善を積み重ねてきた運行実績がある。同じGNPを生むのに消費する交通エネルギー量は欧州の半分の実績を誇っており、先進国からも期待されている。日本の車輛メーカは、“車両納入と保守だけでなく、運航管理そのものへ乗り出したい”と、英企業と協力し最新システムの試験に入っている。
さらには、「青函トンネル」の実績を活かしたアジアと欧州をつなぐボスポラス海峡の海底トンネル、ベトナムの斜張橋、マレーシアのツインタワー等々の世界一の記録プジェクトの実績を活かしたインフラ力が評価されている。
ポイント;いつしか縁遠くなっていた世界一番の座を、インフラ事業が、国内でプロジェクトを成し遂げ、日本流が世界一を獲得していた。しかし、世界で受け入れられるためには、様々な限界を内包していると見なければならない。21世紀は「知恵」の時代と云われる。この観点から、大きな視野でレビューすれば、新しく進む道が見えてくるのではなかろうか。