FA-IT-Researchでは、製造業の現場のキーワードである『見える化』、そして、 そのアキレス腱となる『FA-IT交差点』にスポットを当て、皆様との議論の絆、 知恵の輪を広げていきたいと思います。

2008年09月01日

第19回:DMS展リポート-Ⅱ

先々回のブログのそのⅡとして、DMS展の見学記の続きに戻ります。先に述べました様に、私がDMS展に抱いた興味は、今回新たに『技術伝承ゾーン』が設けられたことと、昨年から始められたと云われる『トレーサビリティゾーン』でした。後者の関心は、ここ1年ぐらい、食品などの偽装問題が頻発しました。製造のグローバル調達が進展し、社会問題にまで発展し、企業存亡を問われる事件にも発展しています。特に食品加工などでは、これまでの国内製造での慣習を準用していてはいけない、品質管理の内容に含めなければならないという気運が高まっています。但し、製造履歴は社外に透明性をもって公開しなければならないという点では、これまで行われてきた品質改善のデータなどは固有技術の範疇に属し社外秘扱であり、技術伝承のための情報漏洩策とは異なり、相反する性質の情報です。私は、どのように扱うかの問題意識があり、両方のゾーンを見学したいと思っていました。

見学の当日、6月のブログで登場願った、米国・シリコンバレーでベンチャーを起業する飯田くんが丁度、日本に来ており、三菱電機ブースで久方ぶりに再会しました。彼は前に紹介しました様に、M2Mの応用としてリモートセンシングとネットワークに関心をもっており、私が行こうとするゾーンに関心があり、一緒に回ろうと云うことになりました。

01)トレーサビリティゾーン

1. 二チゾウ電子制御㈱:「見レコ」生産ライン映像記録システム
  各生産ラインの要所にカメラを設置し、
 
検査結果やモニタ画面をワンショットで記録;クレームなど対応で工場内で発生した問題の追跡に活用する。
製造過程の記録;製造中の製品と作業の映像(重要箇所のズームアップも可)を記録;バーコード、FRID、PLCなどで読み取った製番、固有番号と紐付けする。
機械のチョコ停解析;忘れた頃に発生する機器故障の映像を記録し、タッチパネルモニタを操作し、発生前後の映像をその場で確認できる。カメラは可搬になっており製造ラインのどこにでも簡単に設置できる。
  これらの映像をアクセスして、製品のトレース、製造データの検証、手作業分析が行える。説明員の話の中で、“海外工場へ指導に行って、帰ってくるとすぐに問題が起こる。この様なケースで再出張しなくても、リモート指導ができるので役立っている。”が印象に残った 。


2. 協立システムマシン㈱:リアルタイム設備稼働管理システム
  RFIDを設備カード、作業者カード、指示書カードに取り付け、それぞれの作業ステップで、いつ?どこで?だれが?なにを?を紐付けして工場LAN(Ex. CC-Link)で、生産進捗、設備稼働集計・稼動データのDBに収集され、ユーザの生産運用にあった見方で、いつでも見たいところが「視える!」とある。
説明員が云っていた、“薬局の調剤・調合のマニュアル操作のミス防止にも応用されています”と、食の安全、偽装防止にも役立ちそうである。

02)技術伝承ゾーン

1. (株)トヨタケーラム:新しいナレッジのかたち「指南車」
  当社では、中堅社員の業務増加、熟練者の技術・技能伝承、品質トラブル頻発の3つの問題に対処するため、「指南車」と呼ぶナレッジのかたちを形式化し、知識を蓄積する人と、知識を活用する人へのナビゲーションシステムを開発した。
例えば、熟練者の作業ノウハウの伝承では、熟練者のコツやベテラン作業のデジタル化、若手の失敗や対処方法を簡単に追加でき、逐次参照もできる。
また、作業品質の確保と効率化には、蓄積された作業手順(フローチャートで、逐次指示するナビゲーション)をノートPCにダウンロードし、現場に持ち込むことができる。

2. (株)テプコシステム:技術継承支援ツール「ePower/K-SHOW(イーパワー/ケイショウ)」
  当社は東京電力の関連会社で、発電・配電所設備などを点検する非定常作業を技術伝承するための支援システムを実用開発した。そして汎用化して色々な業種、サービス業のマナー教育、スポーツ・リハビリ指導などにも利用出来るようにした。「直感的な操作」で簡単に操作できる!ツールの専門知識は不要であると云う。動画で伝えるWebラーニングコンテンツの作成・編集のためのオーサリングツールと、プレイヤーがそのコンテンツを参照するツールで、構成されている。このツールの他業種への販売促進活動として、セミナーが活発に行われている。

03)その他

1. 日立のUHF帯RFID“μ-Chip-Hibiki
  プライバシィー・企業情報の保護機能を搭載した新モデル

2. エプソン販売の指紋認証プリンター

など、興味を惹いた。

飯田君との帰途、“今年は、大手メーカばかりでなく、中堅システム・ソフトベンダーなどが出てきて、DMS展が変わってきて面白くなった! 日本の製造業はサービス業化してきたのかねぇ~”と話し合った。

2008年08月25日

製造の『KEM』のあり様は?

前回のブログで、三菱電機FAが、MX MESInterfaceITユニットを開発し、SOA基盤の上で、IBMの開発したセンス・アンド・レスポンドの仕組みと組み合わせることで、俊敏性の高いシステムの構築を可能にしたことを紹介した。センス・アンド・レスポンドは、BPM (Business Process Management) の技術であり、ESB (Enterprise Service Bus)で接続された現場のデバイスや設備から、SAPに代表されるような基幹系アプリケーションまでを、ビジネス・プロセスの中で統合することができる。デモで接続されていたMaximoはそうした基幹系アプリケーションの例ということになる。これにより、操業しながらプロセス・ルールを進化させるPDCAサイクルをリアルタイムに実行することができ、FA-IT間のボトルネックの解消ができることが示されたと言える。

さて、果たして、このシステムインフラを使いこなし、俊敏な製造現場を含む操業システムを実現することが出来るかどうかが課題である。システムの上位管理層のSOAを使いこなすSEの人材は比較的豊富であり、欧米では既に実現している手本も多いと思われるが、「和魂FA・洋IT」の人材は、操業しながら自ら養成するより他に道はない。

言うまでもなく、‘和魂FA’を体現しているベテランは希少価値である上に、製造知識を扱う‘洋IT’を使いこなせる人材は皆無に等しい。一方、‘洋IT’を使える若手で、製造現場の経験者はいない。このような条件下で、何とか製造業の生き残りを賭けてやらなければ始まらない。

去る7月7日更新のブログで引用した日経記事、“今を読み解く”のコラムに、LCA大学院大学の副学長 森田正規氏の「技術継承のカギは個別性; 時代にあった自社流で」の中に、岸宣仁著『デジタル匠の誕生』という本が紹介されていました。早速買ってきて読みました。「はじめに」の項に、“ITはこれまで、放送・通信を中心とする第3次産業のサービス、携帯の進化をイメージし勝ちであるが、第2次産業の製造業にも猛烈な勢いで浸透している。「匠のデジタル化」― ひと言でいえば、それがキーワードである。日本のモノづくりのお家芸であった「匠の技」が、0と1の信号で処理される「デジタル情報に置き換わっている現実を直視しない限り、グローバルな競争で生き残りは難しい。見方を変えれば、「IT(情報技術)とMT(製造技術)の融合」が奔流のような勢いで進み、モノづくりの世界に新次元のパラダイムシフトが起きている。製造業の現場は、デジタルエンジニヤリング(DE)に大きくシフトし始めている。”と警告している。

まさに、ここにある『デジタル匠』を産み、育てて、日本のモノづくりのお家芸をパラダイムシフトさせなければならないのである。

この方法論として、7月22日更新の末尾に掲げた、所謂、事務系の知識処理「洋IT」の進め方として、アクト・コンサルティング(取締役・経営コンサルタント 野間彰);意思を持って知識活用を加速する「ナレッジ・エボリューション・マネージメント『KEM』」の勧めを引用し、製造知識のエボリューションの有り様は? を考えて見たい。

01)ある大手企業の情報システム子会社A社の事例1

親会社以外の顧客からの受注量を増やし,事業拡大を図る目的で,『KEM』の全社展開を目指した。A社のナレッジ・マネジメント・システム(KMS)の進化のプロセスは、次の三つのフェーズに分けられる。

第1フェーズは、「ナレッジ共有」である。営業の提案実績のデータベース化で,提案書を作成する生産性が向上した。

第2フェーズは、「業務革新」であり,有能者のナレッジを活用する方法を仕組みにして,組織全体に広げる段階である。商談成約の勝率を向上させるナレッジを各部門長が率先して収集し,セールスや提案に活用する業務プロセスを確立した段階がこれに当たる。しかし、その効果は部門によりバラつきが大きく出ていた。

第3は,「事業革新」で,事業運営の考え方や仕組みを革新するフェーズである。同社が独自に目指す新しい事業サイクルを指した。

しかし、この進化は,偶然によってもたらされたと言っても過言ではない。事務局の中に,KMSを単なるナレッジ共有のツールにとどめず,大きな成果を上げたいという執念を持った人間がいた。彼は、全社の中にa事業部長が自主努力によってKMSをうまく活用しているのを見出した。これらの偶然が重なって,A社のKMSは進化した。他の会社ではこの様な偶然が起こらず,恐竜のように絶滅寸前のKMSも数多く存在している。そうは言え、進化のスピードに問題があった。第2フェーズに到達するまでに,3年以上の歳月を要し、第3フェーズの事業革新は未だ推進途上である。3年間,事務局は与えられたリソースと予算の範囲で努力した。そして、経営者が積極的に参画し始めたのはフェーズ3の企画が上がってからである。果たしてKMSの進化は,偶然に委ねる以外に方法がないのか? それを打開するのが本題のテーマ:『KES』である。

02)ナレッジ・エボリューション・マネジメント『KES』

経営者が必要なリーダーシップを当初から発揮し,意図を持って進化を加速することは可能であると考える。これが『KES』である。

ナレッジ・エボリューション・マネジメントの成功要件は二つある。「最大ポテンシャルを追求したビジョン構築」と、もう一つは「経営者のリーダーシップ変革」である。B社の実例を挙げて説明している。

続きは、上記のお勧め記事を参照; 進化の要件1),2)へ直接リンク出来ます。

2008年08月19日

第19回:DMS展リポート-Ⅰ

去る6月下旬に東京ビッグサイトで開催されたDMS展(設計・製造ソリューション展)へ三菱電機のFA事業の方々から今年は新しい展示をしていると勧められ、見学する機会を得ました。今年は「技術伝承ゾーン」を新設されたことと、昨年からの「トレーサビリティーゾーン」もあるとの情報もあり、興味があったので、しばらく振りに行ってみました。まず三菱電機のブースへ訪れたところ、例年もまずまず賑わっていましたが、今年は格別賑やかで、プリゼンテーターがステージと、展示エリヤとを駆け回って掛け合いを賑やかにやっています。聴衆の方々も熱心にメモを取って聞いていただいている。展示ボードには、『 現場から経営までをダイレクトに接続; 《~e-F@ctry がSOAを手に入れた~》 』のキャッチが踊り、製造現場の三菱PLCが新ユニット“MX MESInterfaceIT”を介して、IBMのエンタープライズ・アセット管理システムであるMaximoと直接ドッキングしている統合システムになっています。辺りをきょろきょろしていたら、e-F@ctoryシステム開発の中心人物のWさんが目ざとく見つけて説明をしてくれました。過去のブログで何度かぼやきましたが、“情報システムベンダーは、製造現場のことはFAベンダーにお任せで、あまり情報連携に踏み込んで来ない!”という先入観があり、思わず、“IBMは本当にやってくれるのかい? 製造科学技術センターでやっているMfgXのMESXプロジェクトとはどうなるの?”と質問しましところ、IBMはSOAソリューションでMES領域まで踏み込んで三菱と連携開発を進め、実現したと、云います。IBMも遂に製造現場に熱心になったのかと感心することしきりでした。

その構成図を掲げます。

詳しくは、三菱電機e-F@ctory関連資料を参照下さい。

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それにしても、私の認識では、2~3年前、SOA(Service oriented Architecture)が大いに喧伝されましたが、昨今ではあまり耳にしないので、半信半疑でした。しかし、GoogleでSOAを検索し、現在はホットになっていることが分り、大いに認識を改めました。先刻ご承知の皆様も多いことと思いますが、以下にその内容を紹介します。

参照;《解説》:「SOAとBPM」の相関を理解する;システム俊敏性のさらなる向上をはかるためのアプローチ/栗原潔 テックバイザージェイピー代表

説明の要約として、本文中の図が、的確に表現されており、それにコメントを抜粋します。詳しくは本文を参照されたい。

01)俊敏性──今日の情報システム、真の差別化要素

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情報システムの差別化要素について考えてみると、過去においては、処理性能の高速化が一義的だった時代や、低コスト化が一義的だった時代があった。そのあと、ERPなどの統合業務アプリケーション・パッケージが台頭し、タイム・ツー・マーケット(アプリケーションをサービスインできるまでの期間)の短縮に力が注がれることとなった。そして、今や情報システムの真の差別化要素となっているのは俊敏性(アジリティ)、すなわち環境の変化に迅速に対応できる能力と、柔軟性、すなわちシステム自身が変化できる幅である。

02)BPMとSOAの組み合わせによる俊敏性のさらなる向上

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ESB(=Enterprise Service Bus )、BPMの両技術と親和性の高いSOAを組み合わせるというアプローチである。ESBは、SOAのサービス間の やり取りの中継地点となり、サービス呼び出しの制御を行うためのミドルウェアである。BPMはビジネス・プロセスと関連するビジネス・ルールを設計し、プロセスの実行フローを制御し、プロセスの実行状況を監視、可視化するなどの機能を提供するミドルウェアである。ESBは、「バス」という名のとおり、基本的にサービス間、つまり、ビジネス・サブプロセス間のやり取りをすべて補足できる場所である。すなわち、BPMが提供する機能を実現するのに、ESBは最適な場所ということになる。

03)情報システムのボトルネックを解消

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今日の情報システムにおいては、計画(Plan)、実行(Do)、分析(Check)、対応(Action)というPDCAサイクルの一連の流れにおいて、特に分析と対応の間にボトルネックがあるケースが多い。例えば、ビジネスの現状をリアルタイムに分析し、問題点が明らかになっても、それを迅速にシステムに反映させることができずに、全体としての俊敏性が実現できていないという状況だ。こうした状況下において、ビジネスとITの整合性が高いBPMとSOAの組み合わせは、ボトルネックを解消し、俊敏性を全体的に向上できる可能性が高い。将来的には、現場のプロセス上の問題点を検知した際、自動的にプロセスのパラメータを調整する「自己最適化型の情報システム」が現実のものとなることが考えられる。

以上は、情報処理系のシステムにおいて、昨今では俊敏性を求められ、システムを運営しながら、社内外の変化に追従しBPMのビジネス・ルールを進化させて、ESBを介してフレキシブルに対応している方法を述べている。従来のERPでは、製造現場のFAシステムとのやり取りは粒度の大きい指示・報告の内容でシェークハンドが行われていた。そのため製造現場レベルのPDCA改善に留まっており、全社的改善へ展開するボトルネックが大きいことに気づきながら、このギャップに踏み込めないでいた。

今回、IBMと三菱電機がこのボトルネックを取り払い、その俊敏性に真っ向から取り組んだ意義は大きい。

また、三菱電機では、IBM協賛で9/9東京、9/11名古屋にてFA-ITの統合による、新経営戦略のご提案e-F@ctoryセミナーを実施する。

2008年07月22日

製造業の「知」の総力戦、どう戦うか - Ⅱ

前回までのブログを敷衍すると、かつてドイツが産業革命でとった工業力の未来を見据えた方法論は、「誰にでも作れるようにすることを優先する」探求にあった。そして、スキルの世界と決別し、テクノロジィーの世界を確立させた。一方、日本は戦後、追いつけの一念で欧米の工業力を見習い、力をつけてきた。それを支えたのは現場で働く団塊の世代であった、彼等の多くは、技能職として永年勤続し、企業への帰属意識が高く自ら技能を磨き、後輩の育成にも貢献した。結果的に、技能職が現場の改善を主導し、職場の集団活動としてのDQCを高め、20世紀までの高度成長を成し遂げた。その背景には、“日本人はテクノロジィー(技術)とスキル(技)との領域を曖昧にして「技術」と称して、共生させて”工業力を高揚させた。産業革命以降で、世界で唯一、特異な製造力観「和魂FA」をもつ国となった。

前回のブログにあった仲森記者のつぶやきで、“現代まで生き延びてきた工芸品のありようが、私たちに何らかの示唆を与えてくれるのではと思うのである。日本的心情に適った何かを。”が、私の心に引きかかった。

わが国が半世紀に亘って培ってきた製造力優位を造った「和魂FA」をWeb時代にかなった「洋IT」でイノベーションさせ、かつてドイツが決別した「スキル」を再び共存させて、「誰にでも作れるように」ではなく、「ものづくりの心を持つ者は誰でも優れたものが造れる」という未来の工業力のあり様を見据えて、確立できないものかと思うのである。

この「洋IT」を駆使については、これも前々回のブログで引用した森田正規氏の記事、「技術継承のカギは個別性;時代にあった自社流で」に幾つかのヒントになる記述が潜んでいると思われる。

下記に、その部分を掲げIT活用の観点でコメントすると

01) 「技能者の育て上手が、まさしく技能の継承のコツ」である。技能はひたすらよく見て、‘盗むものだ’は間違いであり、良い職人は育て上手でなければならず、また、学ぶ側の真剣に学ぶ気持ちがあってこそ応えるのだと説いている。
 
育てる人がやって見せたことがビジブルに記録され、学ぶ心がある人がそれを見て容易に盗めること、反復試行して師匠に近づく度合いが体感できる。その為の双方向のスキルデータをビジブル化する。

02) 技能には、‘身体制御能力’と‘問題解決能力’があるとの認識が重要である。優れた技能者は、腕で覚えた能力と頭を使って状況を巧みに適応する二つの能力を持っている。
 
上記両能力は不可分である。相互に関係付けられているが、両能力の重要度のウエイトが異なる。01)と組み合わせ、‘問題解決能力’を強化するためのデータ蓄積と分析ツールを充実する。

03) 技術を支える技能こそ、日本のものづくり力の源泉である。これを如何に再生するかが益々重要である。技能には時代と共に変わる面があり、業種によっても重要度合いが異なる、形式知化できる程度も異なり、身体制御から問題解決へと比重も変わってくる傾向がある。
 
02)にコメントしたように、両能力のデータは一人歩きの出来ない属人的なものとして扱うようにしていくことが肝要である。
  グローバル競争で単なるコスト競争に陥らない「優れたものづくり」は絶えず製造技術も技能も、進化を続けるものである。従って、日本の指導が欠かせないことになるであろう。グローバル製造拠点の製造状況をリモートモニタリングし、リモート指導できるインフラを確立しなければならない。尤も、その様な「和魂FA・洋IT」を備え持つ技能師を養成し続けられるかどうかが鍵である。

前回のブログの冒頭で、日本のITの活用は、いわば定型業務の業務プロセスの用途に留まっている、いまや欧米、急進する新興国では、いわゆる非定型業務の知識活用面で、個人の能力依存から組織能力へと転換を図るナレッジマネージメントシステム(KMS)を駆使しており、日本企業はグローバル競争で格差をつけられていると言われている。

このKMSソフトは、やはりホワイトカラー用途に開発された欧米生まれのもので、日本にも移入されて使われ始めている。しかし、KMSを導入した企業では、最初はトップダウンで現場へナレッジの登録と利用を促進する事務局をおいて華々しくスタートするが、そのうちナレッジの蓄積の努力が報われないと、登録・参照の活発さに組織や、個人に差が出始め、やがて形骸化の危機に陥る。この点が従来の定型業務で全員がデータ入力するように厳しくフォローすることで効果が定着していくのと全く異なる性質のようである。この事態に陥り易いのは現場の技術、技能に関する知識処理も共通である。つぎの紹介する資料は、事務系の知識処理であるが、製造知識の処理の進め方の参考用として掲げる

参照: アクト・コンサルティング(取締役・経営コンサルタント 野間彰);意思を持って知識活用を加速する「ナレッジ・エボリューション・マネージメント」の勧め

2008年07月14日

製造業の「知」の総力戦、どう戦うか - Ⅰ

前回のブログで、これからの日本は、「洋IT」を駆使して「人を育てるコトづくり」であると述べたが、今回は、この「洋IT」とは如何なるものかの根本を理解しなければならないと思う。

従来、日本で使われてきたITは、欧米生まれのERP、CADなどが導入され日本流に改良を加えていったものであった。企業のビジネスプロセスのルーチンワークを自動化・高速化する用途、即ちホワイトカラーの定型業務を対象としてきた。システム導入が開始された当時は、すでに業務システムはデファクト化されたパッケージソフトであり、いわば、欧米流のビジネスプロセスに合わせる形で浸透してきた。しかし現状はその延長線でのIT応用に留まっている。いまや欧米では、一歩さきを行き、有能なビジネスマンの知識処理分野にIT活用の拍車が掛かっており、マーケットリサーチとかビジネスシミュレーションなどに活用されている。日本の先進企業でも取り組みが始まっているが、全般的にはこの「洋IT」は、大きく後れをとっている。

「IT=Information Technology」は、本来文字通りの「知」を扱う技術である。日本企業は歴史的に成熟した欧米のITソフトを導入することに慣らされて来たので、ITを導入すれば即効果が出ると誤解する人が多い。これからの製造業のグローバル競争では、「各企業固有の知」は何かを見極め、この「知の総力戦」のために、「洋ITを使いこなす人」を育てることである。

脳科学者の茂木健一郎氏(日経夕刊08年5月21日;『欧米の知の本丸に迫れず』)によれば、日本の知識人の代表である研究者は専門領域に閉じこもりがちで、「他者」と向き合うことを避けており、ゆがんだ状態におかれている。文系の人は日本語の空間で閉じており、一方の理系は成果を英語で発表するのでグローバリズムの中で戦ってはいるが、「総合的な視点」に乏しい。それは科学界で日本人がレビュー(解説)を書くのが下手と言われるのに通じる。世界で日本人の知的存在感は希薄と言っていい。世界的に評価される知や文化が日本にないわけではないが、アニメや漫画のサブカルチャーに浸って満足している。この様に知の競争で後れを取ることは日本経済にとっても大問題である。現在のインターネット社会は知の総力戦だ。“ブロードキャスト・ユアセルフ(あなた自身を放送しよう)”と掲げるユーチューブ、知のすべてを共有化しようという思想のグーグル。こうしたネット企業には、グーテンベルク以降のメディア史を踏まえ人間の未来を見据える骨太の知性を感じる。同時にビジネスとしても確立している。対する日本のネット企業の構えは小さい。大きな思想を持つ人がおらず相当の格差がつけられている。文系、理系なんて関係なく、ありとあらゆる「総合」の知恵を絞る必要がある。と書かれていた。

もうひとつの記事で、日本の製造業で培った「和魂FA」は如何なるものであったかを尋ね、これからのグローバルの知の戦いを「洋IT」を駆使してどう日本流の良さを出すかを考えるのに参考になる、格好のコラムを紹介したい。

参照:記者のつぶやき(仲森智博)…『技と技術と日本のココロ』
要約すると、“日本は刃物で独ゾーリンゲンに完敗した。”つまり、日本製刃物は評判が良く、欧米人もみやげに買って帰るのに、日本メーカがドイツメーカにしてやられたという話を引用して解説している。工業製品と工芸品の違いをよく理解し、工業製品の差別化をどう考えるかが鍵である。現在繰り広げられている中国製品などの価格攻勢を受け、岐路に立つ「日本製品」、やはり選択肢は二つ、品質に目をつぶってあくまで価格には価格で勝負するのか、別の道を探るのか。もし、別の道を模索するならば、現代まで生き延びてきた工芸品のありようが、私たちに何らかの示唆を与えてくれるのではと思うのである。日本的心情に適った何かを!とある。

以下に注目すべき点を列挙する、

01) 「技術」の定義は、本来はそれを保有する人から引き剥がし他の不特定多数に移転することができ、進化させることがでる。他人でもその上に発明や、進化をさせることができる。技術ベースの工業製品は、進化し続け、陳腐化するとどんどん価格が下がる。

02) 「技」の定義は、人と不可分なので伝達が極めて困難である。 技をベースとする工芸品は、時代とともに進化するとは限らない。

03) 日本人はテクノロジィー=技術とスキル=技との領域を曖昧にして「技術」と称して、共生させてきた。これからは、どう変えるか?

04) ドイツ人は、目的とするところが、その時点での効率とか生産性にあるのではなく、未来を見据えた方法論「誰にでも作れるようにすることを優先する」探求にあった。そして、スキルの世界と決別し、テクノロジィーの世界を確立させた。この発想は産業革命を経験した欧米の国々に共通する特性である。

05) 日本人は工芸職人が名人として尊敬され、職人技が生き残った。
欧米は、今でもマイスターの称号は残っているが、日本ほど濃厚ではなく、芸術家やデザイナーは尊敬されるが、普通の職人はあまり尊敬されない。

2008年07月07日

技能者の育て上手が、技能継承のコツ

先回のブログで、「日本の製造業、『和魂FA・洋IT』で再生を!」と訴えました。この『和魂FA』は20世紀末まで、日本の製造業の現場を支えてきたのです。お勧め書籍で紹介した、阿川弘之著『大人の見識』によると、近代日本は江戸末期の武士道精神の土壌:『和魂』があったらばこそ、明治維新で西洋文明:『洋才』を日本流に咀嚼し、近代化を成功させたアジアで唯一の民族であった、とあります。この精神文化は、第二次大戦で国は敗れたが、戦中、戦後派の団塊世代に引継がれ高度成長を支えたのです。戦中派を自認する私は、62年、三菱電機の入社式で、社歌を歌ったとき“品質奉仕の三菱電機”とあり、“何と仰々しい!”と吃驚しましたが、あらゆる場面で反芻し、叩き込まれて違和感がなくなりました。他の日本企業も同じような企業理念が掲げられていました。80年頃から、日本の造語“FA”が日常語となり、当初は海外では通じなかったが、何時しか日本の製造力が認められるようになり世界共通語となった。欧米生まれのIndustrial Automation(IA)は、無人・自動化で、“自働化”の現場で働く人の魂は入っていなかったのです。

再び、昔話に戻りますが、私の入社時代は、企業内に“養成工の訓練学校”があり、新入工員をゼロから心・技を鍛えるスパルタ教育をしていました。講師は、養成工出身の幹部工作員の班長、職長、工師などが当たっていました。社内で技能オリンピックの候補を選抜し、全国大会へ出場する制度もありました。この様に、技術を支える技能者の大切さが認識され、技能の人づくりを高揚するコトづくりが確かりしていました。工作部門の技能幹部は権威があり、私たち新米の技術者も、確りシゴかれ、鍛えられ、技術者が現場を知る教育も行われました。

しかし、今日の日本の製造業では、団塊世代が退き、少子化で新人雇用もままならず、派遣社員で補充するのでは、折角培ってきたFAから『和魂』は風化してしまいます。先細りになる『和魂FA』を今一度蘇らせ、『洋IT』化に取り組まないと、アジアの世界工場での日本のリーダシップは保てません。さらに、従来のIT導入の域で留まっているようではアジアの世界工場も迷走し、日本と共に悲惨なことになります。

この様な状況化で、『和魂FA・洋IT』での再生をどの様に行えばよいかを考えて見たいと思います。

日経の5月18日の“今を読み解く”のコラムに、LCA大学院大学の副学長 森田正規氏、「技術継承のカギは個別性; 時代にあった自社流で」の見出しで、曰く、“日本の技術を支える技能の継承は重大な課題である。かつて産業の空洞化の危機が言われたが、大きな問題の一つが、技能の継承が出来なくなることであった。その問題の一つは、技能には、暗黙知と形式知があり、技能を継承するために、出来る限り形式知化して文章やデータ化して伝えようという試みがあったが、外国に流出し易いという重大な問題を抱えている。業種にもよるが、電気産業の半導体、薄型TV、AV機器などは強さを失っている、これには技能にも深いかかわりがある。もう一つは、技能には、‘身体制御能力’と‘問題解決能力’があるとの認識が重要である。優れた技能者は、腕で覚えた能力と頭を使って状況を巧みに適応する二つの能力を持っている。これも業種によって比重が異なるので一般論では論じることが出来ず、業種によって具体的に考えなければならない。”

そして、結論として、「技能者の育て上手が、まさしく技能の継承のコツ」である。技能はひたすらよく見て、‘盗むものだ’は間違いであり、良い職人は育て上手でなければならず、また、学ぶ側の真剣に学ぶ気持ちがあってこそ応えるのだと説いている。

技術を支える技能こそ、日本のものづくり力の源泉である。これを如何に再生するかが益々重要である。技能には時代と共に変わる面があり、業種によっても重要性が異なる、形式知化できる程度も異なり、身体制御から問題解決へと比重も変わってくる。

そこで、自分の業種での技能はいったいこの先どうなるのかを深く考え、正しく把握することが、基本的に重要である、と書かれている。

私の従来の認識は、技能の継承は、ITを活用して効率的に形式知化するという考えであった。ここで、私の認識を新たにしたことは、そうではなく、技術を支える技能は何かを熟考し、それに対応し進化させなければならない。「洋IT」を駆使して「人を育てるコトづくり」であった。

2008年06月23日

日本の製造業、『和魂FA・洋IT』で再生を!

製造のグローバリゼーションが進行する中で、果たして日本のものづくりの優位性を発揮していけるかどうか? その不安材料には事欠かない。このジレンマを脱するために、去る07年11月更新の『製品価値の再定義で第3の生産革新』のブログで、戦後から20世紀末にかけての日本の製造業が驚異的に発展した歴史の流れを振り返りました。

それを要約すると、

01) 戦後、米国からIEを学び、コンベヤラインによる大量生産(マスプロ)方式をものにした、第1の時代。

02) 85年頃以降、ロボット化・無人化で、生産システムの自動化が進んだ第2の時代で、自動車・半導体産業などを中心に全盛を極めた。

03) 90年代半ばのバブル崩壊で、急激な円高を回避するため、東アジアに工場進出を加速させ、結果的に新興国の工業化に貢献するとともに、低コストの競争力の返り討ちにあい、国内製造は低迷し少子高齢化時代に突入したにも拘らず、新人採用もままならず、これまで製造現場を支えた団塊世代のリタイヤが加速し、良質な働き手を失い、技術伝承もままならない状況下にある。第3の生産革新の方法論が提唱されているが、日本の製造業、改革の道が視界不良で緒に付かず、消長の瀬戸際にある。
そこで、各企業は、本来の自社「得意技」を再評価し、少子高齢化社会のなかで、革新の再チャレンジが出来るかどうかが鍵!と、述べた

上記の中で、02)の製造業の全盛期を成し遂げた日本の「得意技」とは何だったのかを突き詰める必要を感じていたところ、4月の『お勧め書籍』で掲げた、阿川弘之著『大人の見識』 に出会った。

そこには、“明治維新で、日本の武士道精神の基盤があったからこそ、第一次大戦までの短期間に日本は一等国になった。その奢りで、軍国主義が台頭し、大陸侵略に突入し指導層がおかしくなり、太平洋戦争で大敗した。

しかし、企業の底辺を支える戦中・戦後派の人材は健在で、驚異的復興を果たし、日本はGDP世界第2位の経済大国にまで成長した。” しかし、21世紀に入り、その武士道精神は顧みられず、ますます、迷走しているのである。

かつて、戦後の驚異的復興と工業化を果たしたのは、突き詰めていくと、日本の江戸時代にさかのぼる武士道精神を体現した良質な国民性にあると喝破している。江戸時代の末期までは、海に囲まれ外からの侵略を受けず、自らも侵略せず、稲作文化で喩えられるように、与えられた地盤、環境の中で、人間の叡智が営々と練り上げてきた「巧みの文化」に根ざしている。 その「日本武士道」とは、“卑怯な真似をするな、嘘をつくな、弱いものいじめをするな!”の家訓のもとに支配階級の武士が滅私奉公の精神を体現し、この精神は家庭と寺子屋で、叩き込まれ町民にまで浸透していた。著者は、日本の武士道(和魂)とイギリスのジェントルマンシップと一脈通じるものがあると言います。明治維新でこの精神基盤「和魂」があったからこそ、「和魂・洋才」で一等国と言われるまでに急成長を遂げることができた。そして第2次大戦後も、この精神が、戦前・戦中派の人たちに温存され、復興と高度成長を支えた。

昨今、経済のグローバリゼーションでは、オイルマネーのような巨大投機マネーに翻弄される金融市場のなかで、日本の大企業は日本の金融センターから逃げ出し、一方シニア世代は、営々と蓄えてきた銀行預金のゼロ金利に愛想を尽かし、“もっとお金を働かせよ!”の口車に乗って、巨大投機マネーの尻馬に乗ろうとするが、所詮、のろまの個人投資は巨大資本に吸い取られるサマを身近に感ずるにつけ、日本全体の金融資産は、瞬く間に萎んで貧乏国になってしまう不安に囚われます。

このような状況下で、何とかして日本の製造業の優位性を再生しなければ、日本の将来は暗澹たるものになります。

かつて日本の製造業を支えた現場力とその精神、すなわち自己改善と自己増殖していく現場力は、外国には未だ、育つ土壌が醸成されておらず、日本が教えない限り直ぐには育たないと思います。しかし、日本がその範を示す能力が欠如してしまうと、時間が掛か駆るかも知れませんが、やがて新興国は自力で体得して行く国も出てきます。

日本の製造業は、自社の現場力の強みを再考、選択し、それをグローバルな強みにイノベーションさせなければなりません。

先回、先々回で、シリコンバレーの飯田君からの最近のIT事情のレポートを頂きました。検索エンジン型のITインフラは、小規模な用途でもグローバルに低コストで構築できる時代になったことを示唆しています。現在の欧米における「洋IT」は、所謂ホワイトカラーの分野の人達が、マーケッティングとか、サービスの分野で、ITインフラを活用し、業務知識処理と知恵の創生を行い、組織の知識・知恵として実用しています。これに対し、日本は製造現場の技術・技能を、グローバル運用を可能とするFA知識・知恵に進化させることを目指すものです。

かつて明治維新で日本を発展させた『和魂・洋才』を、今一度、『和魂FA・洋IT』で、再チャレンジしようではありませんか!