FA-IT-Researchでは、製造業の現場のキーワードである『見える化』、そして、 そのアキレス腱となる『FA-IT交差点』にスポットを当て、皆様との議論の絆、 知恵の輪を広げていきたいと思います。

2010年08月23日

勝ちパターンづくりのプロセスを「見える化」する

前回のブログで引用した宮田秀明氏の「数値経営力学」は、文字どおりのデジタル数値で表現される事象を扱うものである。即ち、企業としては既知の「知」の領域である。これを「企業固有の知」として遺憾なく活用することは、重要であることは、言を待たない。

しかしながら、前回のブログで引用した2年前のブログ;『製造業の「知」の総力戦、どう戦うか-Ⅱ』で述べている様に、これからの日本の製造業のグローバル競争下の「知の総力戦」では、社内のデジタル化された既知の「企業固有の知」だけでは競争優位に立てない。

現実には、現場の『思いも寄らない』問題の遭遇に加え、今後のグローバル展開によって様々な予期しなかった問題も発生するであろう。これらの問題の原因を、実証実験により前倒しで突き止め、「企業固有の知」として獲得する能力が、未来の競争優位の条件となるであろう。

今回のブログのテーマは、社内で誰もが見過ごしていた問題への取り組みのプロセスについて、次に引用するホンダのケースから、勝ちパターンの「見える化」の手法を考察してみたい。
【勝つインテリジェンス】
勝ちパターンづくりのプロセスを「見える化」する  クックパッドとホンダから学ぶ気づきの秘訣  
http://cmad.nikkeibp.co.jp/?4_67835_495788_122

注)今回は、ホンダの記事のみを取り扱う。
記事の前段は、‘クックパット’のインターネットビジネスの内容で、市場参加者のアクセス・ログを活用したビジネスモデルの話である。

≪ホンダの記事の要約≫

勝ちパターンは未来の競争優位についての仮説であり、未来のことはデータを分析しても分からない。だから、勝ちパターンづくりには、よく考えて、やってみて、振り返り、気づきを得て、修正するプロセスが不可欠である。

・プロセスの「見える化」で効率的に気づきを得る
勝ちパターンづくりでは、気づきが大きな役割を果たす。気づきとは、それまで知らなかったことを知ること、つまり発見にほかならない。
よく考えることは必要だが、発見は「やってみる」ことでしか生まれない。だからといって、犬も歩けば棒に当たる式に、闇雲にやってみるのは無駄である。やってみて、気づきを得る効率的な方法があるはずだ。
今回はプロセスの「見える化」について、考えを深めたい。 気づきを得るために、是非述べておきたい重要なことがある。それは、既存の見方で推論するのではなく、あるがままの事実を観察することから始めるということだ。

・ホンダシビックの不具合問題
本田技研の久米是志元社長が書いた本の中に、マスキー法に適合した低公害エンジンを搭載したシビックに起こったエンジン不具合の話が出てくる。今から40年ほど前の話だが、示唆に富む話であるので紹介しておきたい。
不具合問題で日夜苦労していた久米氏は、既に引退していた藤沢武夫氏から、次のような助言を受ける。 「過去の失敗を底の底まで探ってみなさい。不正確でもいいから、そのとき自分は本当にどう思ったか、何を感じ何を考えたのか、何でもいいから思い出せるだけ思い出して、こころの底に溜まっている泥を一度正直にさらけ出して、その中を探ってごらん」(久米是志『「ひらめき」の設計図』(小学館)より引用)
久米氏は半信半疑で同僚たちとともに、自分の設計した所から発生した不具合現象を模造紙に書き出し、壁に張り出した。しかし、1週間経っても「これは」と思うことが見つからない。

・そんなことが起こるとは思わなかった
そんなとき、「そんなことが起こるとは思わなかった」という一文に目が留まる。そして、気づきを得る。ことのすべてはここから起こっているのではないか。予測を誤ったというより、そもそもそんなことが起きるという認識がなかったのではないか。 過去に発生した不具合現象を再発させないための関門はあった。しかし、従来の関門は予想外の不具合現象には役に立たない。
そこで、久米氏は考えた。経験しないことは分からないのだから、予想外の不具合現象を起こす可能性が高い使用環境を集めて、問題が起こるかどうかを実験すればいい。
「不具合現象は偶発的な使用環境で発生しているのであるから、それならば実市場から偶発的な使用環境を収集集約して、それを検証の関門に加えればよいはずです」(同上) こうして「市場実験モデル」と呼ぶ検証の関門が新たに設けられた。


・客観的反省と主体的反省
現実が仮説と異なる場合、過去の事実や自分の経験に基づくこれまでの見方(因果律)で推論を組み立て、その原因を探ろうとすることが多い。これを久米氏は「客観的反省」と呼ぶ。
前回、事後レビューで成果が上がらないのは、必要な記録が残されていないからだと書いた。それに加えて、これまでの見方で事後レビューを行なっていることも、成果が上がらない原因といえる。
予想外の現実に直面したときは、これまでの見方で推論するのではなく、あるがままの事実を観察して気づきを得て、これまでの見方を変える「主体的反省」が求められる。
「まず前提となるのは最初に自分たちの持っている知識や論理をいったんはすべて棄て去って白紙の状態から取りかかることです。最初にああではないか、こうではなかろうかという推理が入りこむとその後の展開を大きく狂わせる要因になりかねません。ことはすべて『思いも寄らぬこと』から起こっているのですから」(同上)
勝ちパターンづくりのプロセスを「見える化」できたとしても、これまでの見方にとらわれていると気づきは得られないということだ。

≪筆者コメント≫
この様にして、「市場実験モデル」と呼ぶ‘検証の関門’を強化しつつ、「企業固有の知」を獲得し、宮田秀明氏の「数値経営力学」を活用して、グローバル時代の『製造業の「知」の総力戦』を戦えばと、 思うのである。

2010年08月17日

数値流体力学から『数値経営力学』への応用-Ⅱ

前回より続けます。

≪要約-その2≫

・経営の「見える化」で利益の最大化をはかる
経営の世界でも「見える化」の必要性と有効性が叫ばれて久しい。
ERP(Enterprise Resource Planning、企業情報資源計画)などによって基幹業務のデータベースも整えられてきているのに、貴重なデータは日常定型的な業務に使われるだけで、経営の「見える化」に使われている例は稀なようだ。
利益の出る経営のメカニズムは、経営の「見える化」を実行してからこそ理解され、さらに優れた経営へのヒントもここから生まれると思う。
製造業の経営なら、生産と流通輸送と販売のデータがある。
すべての商品のこれらのデータをまとめて色々な形の「見える化」を行うと色々なことが分かってくる。
一個一個の商品にID番号をつけ、そのライフサイクルをデータ化するとしよう。いつ生産され何日間工場に在庫として置かれ、何日かかって北米へ運ばれ、米国販社に何日間在庫され、最終的にいつ販売されたかのデータが得られるとする。これが、すべての商品に対してデータとしてあれば、完全なデータベースができる。
生産から販売までの統合されたデータベースが全商品に対して得られれば、様々な「見える化」ができる。

・「見える化」出来ることはまだまだある
最終的に売れ残った商品は、いつどこで生産されたものなのか、ある時期に欠品してしまったのは、どの時期の生産計画に問題があったのか、在庫日数やリードタイムは適切な形で変化していっているか、それぞれの商品がどのように利益貢献しているのか、こんなことがすべて「見える化」される。     
「見える化」によって経営のメカニズムが明らかになってくるだろう。販売を見ながらの生産も可能になるだろう。
今のコンピューターの力は素晴らしい。通販会社の1年間5000万件の受注データを一気に「見える化」することもできる。高速道路上の50万台の車の動きを1秒毎に1日間8万6400ステップで動かすこともできる。コンピューターに滞っている大量の経営データをただ寝かせているだけではあまりにももったいない。

詳細参照;http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20100527/214620/

以上

前々回のブログ;『ものづくり企業は、「富の創造」によって収入を得る』にて、引用記事の筆者;谷島氏が、読者に理解し易くするため、ドラッカーの主張を4象限のマトリックスで、表現してくれました。
― マトリクスの横軸は情報の入手場所とし、「左を組織の中」、「右を組織の外」とする。
― 縦軸は情報の目的とし、上側はイノベーションを推進し「富を創出するための情報」、下側は「企業活動のコストに関わる情報」
として図形化して、説明されました。

このように象限に分けると、確かに分り易いのですが、イノベーションの目的を内・外に分けるのは解り易くて良いのですが、それに従属するコストを組織の中と外を縦軸ではっきりわけて仕切ってしまうと、違和感が出てきます。夫々の目的を果たすには内・外の組織の協働(コスト)が必要であるからです。

どうしても事業ユニットとか、もっとメッシュを細かにして、プロダクト対応で区分けしないと、この4象限方式は、コンセプトは理解出来ても、実施する段階で、担当者間での誤解が生じ、イノベーションの目的に対応するコスト把握との関連が、一貫しない嫌いがあります。

そこで、前回の冒頭に述べましたように、その解決策の一例として、前回~今回のブログで、宮田秀明氏の「数値経営力学」を引用しました。

この本文の中で、“一個一個の商品にID番号をつけ、そのライフサイクルをデータ化するとしよう。例えば、いつ生産され何日間工場に在庫として置かれ、何日かかって北米へ運ばれ、米国販社に何日間在庫され、最終的にいつ販売されたかのデータが得られるとする。これが、すべての商品に対してデータとしてあれば、完全なデータベースができる。” とありました。

膨大なデータベースとなりますが、「数値経営力学」で解析すれば、与件のプロダクトのライフサイクルを通じたパーフォーマンスをシミュレートすることができると云うわけです。

しかし、各企業は、固有のものづくりに関し、上記の様なシミュレーションが実用出来るようになるためには、宮田氏が船の波で、経験されたように、的確なデータの収集と実用検証する地道な活動により、固有の「ものづくりの知識・知恵」としてのデータ蓄積をすることが必須条件となります。

また、この様な‘IT活用プロジェクト’を社内で推進する手法として、一挙に社内展開するのではなく、当初は有能な適任者をリーダに選び、チームメンバーを育成しつつ、スモールスタートさせ、実用の成功体験を重ねつつ、全社に伝播させる進め方が欠かせません。

参照:08年7月22日更新;製造業の「知」の総力戦、どう戦うか-Ⅱ
このブログは、約2年前、「ナレッジ・エボリューション・マネージメント(KEM)」の某社の実践プロジェクト例を引用して、上記に参照しましたブログを書きました。
今回、読み返してみましたが、この‘IT活用プロジェクト’と類似しており参考になるかと、リンクしました。

なお、このブログ本文の末尾で、
アクト・コンサルティング(取締役・経営コンサルタント 野間彰;
意思を持って知識活用を加速する「ナレッジ・エボリューション・マネージメント」の勧め 
 
へリンクしておりますので、併せてご覧ください。

2010年08月09日

数値流体力学から『数値経営力学』への応用-Ⅰ

先ず、先月3回のブログを総括し、今月のテーマへの導入を試みたいと思います。

先月のテーマは、これからの日本の‘ものづくり’は、製品のみにフォーカスした‘モノ売り’から‘グローバルなものづくり’へと転換し、海外拠点生産の‘モノづくりサポート・サービス’、そして製品が顧客ユーザにわたってからの ‘製品ライフサイクル・サービス’を通じて、世界各地の顧客満足度を満し、新たなニーズを発掘して、さらなる顧客満足度を高めて自社製品の顧客市場を拡大して行くという、‘サービス売り’を軸とした変革が求められています。

そして、この様なグローバルな経営戦略を支える企業経営システムは、従来の期間損益ベースの財務会計では、上記の変革にそぐわなくなっています。これからの『ものづくり会計術』は、『Time Line Costing(TLC)』であると紹介しました。しかし、このTLCを駆使して、経営に取り組む主体は財務部ではなく、ものづくりに直接携わる全ての組織と人に依存するとありました。

しかし、そうは云っても、コストばかりに注目しても、それは結果であり、現場がどう取り組むかの意識改革が進まないのではないかと、問題意識を抱くなかで、ドラッカーの記述で、“『富の創造』によって収入を得るという、意識と行動が伴わなければならない”とあるのを見つけ、先月の3回目で紹介しました。

そこで、今回は、この意識改革は分かったが、膨大な製品が、個々の顧客へ届く過程と、個々のユーザが使い始めてからライフサイクルを通じて、どの様な問題が起こったかを把握するには、膨大なデータの収集と分析を必要としている。

これも実現困難で、空論に陥りやすいのではないかと思われ、そこを解決する良い手法はないものかと、記事を探していましたところ、一つの方法論を見つけました。以下に紹介します。

宮田秀明の「経営設計学」:
数値経営力学で経営を「見える化」する ‘優れた経営のヒントがここにある’

≪要約-その1≫

宮田秀明氏は、30~40歳代の10年間、コンピューターを駆使して船を設計するための「デジタル流体力学」という分野の研究に携わられた。船の波をコンピューター上で再現するための新しいソフトウェアの開発である。
船は波を作りながら進むのだが、その波が大きいということは、波を作るための馬力が必要なわけだから無駄が多い。つまり船の馬力のかなりが波を作ることに使われてしまう。だから、波が小さく低くなるように船の形を設計したほうがいい。
その頃は、実験を繰り返すという時間と費用のかかる設計法しかなかった。色々な形の船を設計し、長いプールのような実験設備で5、6メートルもある大きな模型船を走らせて、いちばん馬力が小さくて済む船を選ぶのが一般的な設計法だった。しかし、どうしてその形にすると必要な馬力が小さくなるのかはあまり考えなかった。また、形を変えると船の作る波がどのように変わるかもあまり考えなかった。

経営で言えば、商品を変えてみたり、ビジネスのやり方を変えてみて、利益が最も大きかった商品や経営方法を採用するといった具合だ。どうしてその経営方法が良かったのかはあまり追求して考えようとしないことが多いのと同じだ。 水の現象も、経営の現象も、複雑で非線形だから、メカニズムは分からないものと考えて、結果だけで判断してしまっていたのだ。これでは設計と経営も、今一段の進歩は望めない。
水の運動は「ナビエ・ストークス式」という難しい方程式に従うのだが、この方程式はそのままでは解けない方程式だ。これをコンピューターを駆使して数値のカタマリに置き換えて力づくで解くのが、「数値流体力学」という学問分野だった。今では機械工学、航空工学、土木工学、船舶工学、気象学などの広い分野で当たり前の技術になっている。事業仕分けで科学技術予算削減の象徴的なもののように議論された「地球シミュレーター」も、このためのコンピューター設備である。
この4年間の研究で、ようやく船が作る波をコンピューター上で再現できるようになった。この苦労の成果であるコンピューターソフトウエアは1983年に当時の造船大手7社に配布したので、船の設計は1983年から徐々にだが大きな変化をしていくことになった。ムーアの法則で性能向上していくコンピューターの後押しもあった。
このソフトウエアが実現したのは、船が作る波をコンピューター上で再現し「見える化」できるようにしたことだった。船の設計が、力を計測して馬力の大小だけで形状を決定するやり方から、船の作る波を「見える化」してその正体を知り、波を制御して小さくすることができるやり方に変化させたのだ。

この技術による船舶設計の進歩は大きかったが、機械工学や航空工学や気象学や様々な分野でも同じようにコンピューター科学による技術の進歩は広がっていった。   (次回へ続く)


2010年07月26日

ものづくり企業は、『富の創造』によって収入を得る

前回ブログで、“製造業の「ものづくり」には、製品のライフサイクルを通した損益管理が必要であり、「もの」を軸とした会計をすべきである。”と書かれており、その内容を紹介しました。

即ち、事業構造としてのキャッシュの健全化を目指すため、「プロダクトベース・キャッシュフローマネジメント」を行うことが必要である。その方法論として、「Time-line Costing(TLC)」という時間軸で損益構造・コスト構造を可視化する手法がある。このTLCの考え方を製造業で導入し、キャッシュの回収スピードを評価できる新たな評価指標(KPI)の導入が急務である、とありました。

そして、私は、その末尾で、キャッシュマネジメントは、財務部が管理するのではなく、事業企画・原価企画・設計・製造・調達など製品開発に携わる全ての人が意識し、マネジメントしていくことが重要となると、強調されており、新鮮さを覚えました。

しかし、私の偏見かも知れませんが、とかく社内では、財務会計データとは、経理担当が、客観的に当該部門の期間損益を算出し、そのデータを、担当部門のみならず、社内トップを含む管理部門へも開示される、謂わば、‘部門経営の定期通信簿’のようなもので、数値が好調のときは胸を張るが、悪いときは肩身が狭くなリ、ひたすら損益数値を気にし、短期的視野で、即効的に損益数値を改善することに四苦八苦する、悪弊がありました。

この様な、社内風土の中でも、部門長が、経営者としての資質が優れている場合は、担当するプロダクト単位の製造・サービスなどの作業区分けした抜本改善策を立案するとともに、TLC目標を設定し、配下の担当者への動機付けを行う、そして、実行段階では、その区分での改善度合いを反映するTLCの経過実績と照合しつつ、改善策のPDCAを繰り返す。場合によっては、関係部門と連鎖する作業のTLCの把握の仕方も進化させながら有効な連携作業の改善策を遂行していく.....。  しかし、この様な、優れた部門長も存在する一方で、目先のTLCの数値のみにとらわれ勝ちに陥る部門長もあると云うのが、実態であろうと推察されます。

従って、この実施に当たっては、連鎖部門との改善状況の相互診断や、悩みもお互いに開示し、切磋琢磨がうまく実施できる仕組み、即ち、‘コトづくり’ が欠かせないと思われます。

更に、このTLC数値は機械的には出せるが、担当部門の実態を正確に反映させるのは容易ではない。どうしたら実現できるのかと、思考を巡らせている中で、次の「お勧め記事」を見つけました。

ドラッカーは、“企業が収入を得るのは、「コストの管理」ではなく、「富の創造」によってである。市場のイノベーションに関わる情報獲得能力である”と、本質論を見事に言い当て、喝破しています。
参照:【経営学の巨人ドラッカーから学ぶ「情報論」】
「組織が必要とする情報」を持っていますか? “図が嫌い”なドラッカーから4つの情報を学ぶ―Author谷島 宣之氏


以下に興味ある記述のみ抜粋します。
詳しくは、上記の参照から、『お勧め記事』経由でアクセスしてください。

ドラッカーは、「今日のところ、企業と情報のコンセプトの再構築は、最古の情報システムたる会計の世界において最も進んでいる」と書く。
ただし、すぐ後で「しかし、自社の活動のコストについての情報を得ただけでは不十分である」とし、「経済活動の連鎖全体のコストを把握」しなければならないと説く。
これ以降も「しかし」が繰り返される。さらに読んでいくと、「しかし、企業が収入を得るのは、コストの管理ではなく、富の創造によってである」と指摘している。 『富の創造のための情報』としては、‘基礎情報’、‘生産性情報’、‘強み情報’、‘資金情報と人材情報’と解説するが、これら四つの種類の情報にしても、現在の状況と、とるべき戦術を教えるにとどまる。「戦略については、外部環境についての組織的な情報が必要である」と云う。

ドラッカーが図を嫌ったわけ
ドラッカーは順々と書いているが、「組織が必要とする情報」を読み終えて、筆者(上田 惇生氏)は四象限のマトリクスを思い浮かべた。マトリクスの横軸に情報の入手場所を、縦軸に情報の目的をとる。
情報の入手場所とは、企業の中にある情報か、あるいは外にある情報か、といったことである。情報の目的とは、イノベーションを推進し富を創出するための情報か、それとも企業活動のコストに関わる情報か、といった違いを指す。こうすると、ドラッカーの論考が整理できる。
だが、ドラッカーはマトリクスという言葉は使っていないし、図も掲載していない。その疑問にこう答えている。
モデルの限界を十分理解した上で使うのであればドラッカーは否定しない。限界を知らない人、あるいは限界があることを説明しない人を嫌った。
社会や企業は生き物であり変化するから、固定したモデルですべてを割り切れない。マトリクスといっても、ある定義にそって境界線を引いているだけだ。その境界線は不変ではなく、動く可能性が常にある。モデルの境界線や座標軸が固定したものと思ってしまうと、大きな間違いをしでかす危険があるというわけだ。
四象限のマトリクスを頭の中に描き、なおかつその枠組みが固定的なものでないことに注意しつつ、読み進むと、前述の通り、マトリクスの横軸は情報の入手場所とし、左を組織の中、右を組織の外とする。縦軸は情報の目的とし、上側はイノベーションを推進し富を創出するための情報、下側は企業活動のコストに関わる情報、とする。以上のように分けると四象限の左下、組織の中にあるコストに関わる情報として「会計情報」が位置付けられる。ドラッカーは活動基準原価計算(ABC)を取り入れることを推奨している。

富の創造に必要な情報
企業内外のコスト情報は、企業を効率的に経営するための基礎情報である。しかし、「企業が収入を得るのは、コストの管理ではなく、富の創造によってである」から、イノベーションに関する情報が必要になる。マトリクスでいうと、上段の象限である。こうした情報は「企業内のイノベーション関連情報」「企業外のイノベーション関連情報」に分けられる。
マトリクスの左上に位置付けられる「企業内のイノベーション関連情報」は4つあるとして、ドラッカーはかなり詳しく説明している。


2010年07月20日

これからの『ものづくリ復活の会計術』とは?

前回のブログで、私が三菱オフコン販売会社MB社へ移籍した2000年当時、業界は、C/Sオープンシステム時代に突入し、モノ(HW)売りから、ソフト・サービス(SW)売り競争への転換が迫られ、このSWで生きる道を確立することが、求められました。そこで、支社・店に所属するサービス部門を本社直轄とし、コールセンターの立ち上げを急ぐとともに、部門業績評価を期間売上損益の業績評価から、コストベースの顧客満足度の改善評価に変更したことを述べました。

当時のMB社では、財務会計システムを中核としたオフコン・システムの販売商社でもあり、自社の経理システムも期間売上損益の業績評価一辺倒で行われておりました。そのため、社内では、この変革施策はかなり違和感があり、反発がありました。これを強引に遂行できたのは、既に、私自身が、この管理方式の洗礼を受けていたのが、強みとなりました。

それは、更に3年を遡る1997年に、私は、三菱電機FA事業本部から、MS社(メルコムサービス社;現在の三菱電機インフォメーション・テクノロジィ=MDIT社の前身)へ転籍して3年を過ごし、そこからMB社へ移ってきたのです。

MS社は、本来大手企業向け三菱大型汎用コンピュータのサービス会社として存在していましたが、90年代に入り、国内大手ユーザ企業は、広域ネットワークと大規模サーバーの導入が始まり、大型汎用コンピュータ事業も、数年早く、MB社と同じ運命を先行して、辿っていました。

前任のMS社長が、自立経営に迫られ、全国規模の大手企業や、電信・電話会社などの三菱以外のネットワークとか大規模サーバーの保全サービスなどにも乗り出し、ネットワークのリモート監視と、コールセンターの設備を導入し、本格的体制が整いつつあるときに、私にバトンタッチされたのです。

この様な経験があり、MB社の中小規模顧客サービスへのコールセンターの導入に、私は、自信をもって社内説得ができ、サービス部門の設備企画にあたり、設立プロジェクト・メンバーのMSの見学などで、早期立ち上げができ、幸運でした。

しかし、MB社の経験を振り返ると、一部の部門だけ、期間売上損益の評価を取りやめ、顧客サービスの満足度の改善指標で評価する方法は、全社経営上不徹底であり、中途半端の嫌いを免れませんでした。

特に、今日直面するものづくり企業のグローバル時代を生き抜くための『SW・サービス本位経営』の時代では、全社がベクトルを合わせる一本筋の通った経営・会計術が求められています。

この様な問題意識から、何か適切な文献・記述がないものかと探しておりましたところ、次の記事を見つけ、大いに納得できる‘要諦’を見つけました。
参照:雑誌サイトから《ものづくり復活の会計術》 第5回・『利益ゼロ』の経営―2010/04/23 00:00 北山 一真=経営コンサルタント
是非、この記事を開いて、詳細を読んで下さることをお薦めします。

以下に、本文を要約しますと、



製造業の経営からみると、従来の会計システムには、“常識がない”ということである。品質管理・納期管理においては当たり前の概念でも、何故か原価管理や会計の世界では、当たり前ではないのである。
また、恐ろしいことに、多くの方が「当たり前の事が出来ていない」という認識すら持っていない。そんな当たり前すぎる事もできておらず、未だ期間損益(財務会計)の風習から脱却出来ていない。

製造業は「ものづくり」だから、期間での損益には何ら意味を持たず、製品のライフサイクルを通した損益が必要である。「もの」を軸とした会計をしよう。
「もの」を軸とした損益、「サービス・オプション」を加えた損益、「製品系列」に括った損益。これらの三つの視点を用いて、『キャッシュの回収スピード』を評価する事が要諦である。


キャッシュの回収スピードを評価するに当たっては、損益構造を時間軸で可視化すること。そして、先行的に投資した固定費の「回収ポイント」のマネジメントが重要である。
この時間軸で損益構造・コスト構造を可視化する手法として、「Time-line Costing(TLC)」という方法論がある。このTLCの考え方を製造業で導入することが必要であり、キャッシュの回収スピードを評価できる新評価指標(KPI)の導入が急務である。

このTLC指数を見ていくと、回収ポイントより以前は、製品を販売して「モノ」が売れていても実質的には利益が出ておらず、先行的に投資した部分(=固定費)を回収しているだけの期間である。製造業は、先行的に投資した固定費を、時間をかけて回収する(=固定費回収ビジネス)という視点の転換が行えるかどうかである。
従って、コストマネジメント以上に、「キャッシュマネジメント」を重要視しなければならない。
この回収ポイントを迎え、初めて『利益ゼロ』の状態になる。この『利益ゼロ』(=回収ポイント)を意識し、いかに早めるかのマネジメントが生き残りの鍵となる「プロダクトベース・キャッシュフローマネジメント」を行い、
事業構造としてのキャッシュの健全化を目指す必要がある。

キャッシュマネジメントは、財務部が検討する事ではない。事業企画・原価企画・設計・製造・調達など製品開発に携わる全ての人が意識をし、マネジメントしていくことが重要となる。まず、その意識付けのためにも、製品毎にキャッシュの回収スピードを評価する『TLC指数』の導入を行ってもらいたい。

2010年07月12日

‘モノ売り’から‘サービス売り’への変革の実体験

先回更新のブログ:『「日本流ものづくり」の行方を探る‐Ⅲ』において、アジア開発銀行総裁の黒田東彦氏のインタービュのなかで、“これからの日本のものづくりは、必然的に高度となり、一部はサービス産業になっていく。機器本体が産む付加価値は小さく、大半はソフトウエアやコンテンツなどのサービスになる。モノづくり(ハードウエア製造)依存を変えなければならない。”とありました。

そして、末尾の筆者コメントで、日本の製造業の次なる課題は、「自社のものづくりビジョン」を‘国内視野’から‘グローバル視野’への転換を図ったうえで、個々の社員が、グローバル市場へ飛び出し、新たな時代を躍進して行かなければなりません。
しかし、“これを実践していくためには、社内には従来の慣行のしがらみから、社員が飛躍する行動を妨げる情報システムとか制度、経営評価基準の残滓が残っています。”と述べました。

こう述べましたのは、10年前の2000年、私は、中小規模事務用計算機市場をターゲットとするオフィスコンピュータ(通称:オフコン)の販売会社;三菱電機ビジネスシステム(MB社)へ移り、経営に携わり始めていました。当時、私自身が製品販売(モノ売り)事業からソフト・サービス売り事業への転換で苦闘した体験が蘇ったからです。

三菱電機のオフコン事業の歴史は、1960年代前半、機械式会計機のライセンス製造から始まり、間もなくエレクトロニクスの進化と共に、専用組込みSWで作動する電子機器(モノ)製品、MELCOMオフコンが開発され、90年初頭までオフコン事業の業績は拡大の一途を遂げました。しかし、90年代後半からパソコンベースのクライアント/サーバー・システム(C/S)によるオープンシステムとの競合の始まりを契機に、オフコン事業は凋落の一途をたどっていきました。

一方の私が移りましたMB社の歴史は、70年代初頭にMELCOMオフコンの販売会社として設立され、三菱オフコン事業と共に発展していきました。90年頃までは、相次ぐ高性能機種への新規・リプレース販売と、保守サービスで顧客を囲い込み、‘モノ’を軸とする好事業を展開しておりましたが、2000年に入り、まさに‘モノ’に依存出来ないソフトウエア・サービス事業への自立転換が求められていました。

当時のMB自身の社内会計システムは、製品本体、アフターサービスはそれぞれの売上単位で分けられ、それぞれ期間売上損益(財務会計)で評価する風習でした。その中で、サービス価格は従来の慣行から製品本体価格の%を基準にして期間単位で決められていたのに対比し、製品本体価格は、HW・アプリケーションSW込みで原価構成されており、他社との受注競争にさらされ、比較的厳しい売上損益となっていましたが、サービス売上損益は、安定収益源となっており、製品本体損益を補っていました。しかも、当時は全国の支社・店の傘下に、販売部門とアフターサービス部門が組織化されていたため、支社・店単位で集約されて損益評価されていました。サービス事業は、顧客の次期リプレースへつながる営業活動にも通じるので、手厚くサービス坦当が配置され、固定人件費が大きく掛けられていました。

しかし、2000年以降、C/Sシステムへの移行が余儀無くされると、オープンシステム・コンポーネント(モノ)の市場価格は極端に下り、さらにサービス価格も他社との競合で低下し、製品・サービスともにダブルで悪化し、経営不振が歴然となっていました。

そこで、私が取りました施策は、全社の支社・店のサービス部門を統括する部門を本社に組織化し、CTI(Computer Telephony Integration)を導入し、CRM(Customer Relationship Management)体制を整え、『コールセンター』を開設しました。そして、“サービス部門は、サービス品質の向上を追求するため、期間損益の管理はせず、コストセンターとして扱うこととし、《顧客満足度(=∑満足度指標/期間コスト)》で部門評価する。” と通達し、満足度指標は、作業内容(ex.コールセンター、カスタマーサービス・マンの作業品質指標を、それぞれ部門別に工夫して設け、継続改善の度合いで評価するとしました。

当初、顧客からは、地元の顔見知りのサービス・マンが電話一本で、飛んで来て対応してくれたのが、本社のコールセンターに電話をかけることになり、標準語(東京弁)で応答され、評判が悪かったのですが、運用が順次慣れるに従って、その声は聞かれなくなりました。
一方、社内では、サービス部門は、営業部門の従属的な位置づけであったものが、独自の顧客満足度指標をつくり、その改善成果がビジブル化するに連れ、活性化していき、一定の成果を得ました。

2010年06月28日

『日本流ものづくり』の行方を探る‐Ⅲ

前回より続けます。



(6) ニッポン復活の10年 [インタビュー] 黒田東彦氏 アジア開発銀行総裁     NK-100107

アジア需要で内需喚起/先端分野で常に首位を狙え

日本が活力を取り戻すために何をなすべきか。復活10年に必要な取組みを識者に聞いた。

― 日本のGDPは近く中国に抜かれます
日本企業のイノベーションや日本の科学技術力は優位を保ち、一挙に抜かれることはない。高成長の中国、日本の世界経済にたいする貢献度は米国以上、経済規模で抜かれる質的意義は乏しい。
日本の当面の懸案は、深刻なデフレの克服だ。物価安定の責任は政府、中央銀行にある。中期ではアジアの成長を活かす産業構造の転換が不可欠。財政・社会保障の安定と、高等教育、科学技術の競争力を高めるのも課題である。

― アジア経済の可能性は?
2010年代から20年代は『アジアの時代』になるのは確実だ。人口が10億人超の中国、インドとインドネシアを加えると2.3億人と日本、米国に次ぐ3つの人口大国がアジアにある。消費や投資の潜在需要は十分にある。

― その「アジアの内需」を生かす方法は?
まず発想の転換だ。日本が中国に資本財を輸出し、現地で組み立てた消費財を大量に欧米に輸出するモデルはもう無理。最終需要地が中国の国内やアジアの市場になるよう、供給構造を変えなければならない。日本企業がアジアの拠点収益を日本に戻し、それを国内で先端分野へ新たな投資に還元すれば、内需を喚起できる。そうした循環にすべきだ。

― 国内の雇用や成長に結び付くでしょうか?
韓国企業はインドなどへ積極投資で利益を上げたが、国内雇用が伸びていない。日本も高所得の雇用維持が課題である。日本は高齢化で人口が減り始めた。産業構造をうまく転換し、雇用の総数が増えなくても完全雇用が達成できる。
製造業は高度となり、一部はサービス産業になっていく。
機器本体が産む付加価値は小さく、大半はソフトウエアやコンテンツなどのサービスになる。モノづくり依存を変えなければならない。

― 日本の強みを保つために必要なことは?
大学の国際競争力や科学技術で、米国が突出している。日本は米に競争を挑み、世界のトップを絶えず目指すべきだ。中国やインドは、米国に流れた優秀な人材が本国へ戻り、科学技術や産業の革新を支え、急速に追い上げている。

筆者コメント:
上記インタビューの末尾で、“日本は米に競争を挑み、世界のトップを絶えず目指すべきだ”とあります。これは黒田氏がインタビューで、切って捨てるように簡単に云われました。しかし、日本はこれが出来なければ、アジアの新興国を味方に付けることができません。日本は欧米への輸出を前提にするモデルはもはや通用しないのです。アジアを味方に付けるには、‘アジアの需要’を満たすものづくりを先導し、アジアと共に経済成長を推進しなければなりません。この発想の原点を、‘日本の復活10年’、日本のものづくり全般に課せられた重い課題です。

以上の6月のブログでは、『‘日本流ものづくり’の行方を探る』を考える道標となればと、3回に亘り、昨年11月から今年の4月までの間に蒐集しておりました日経新聞記事から6点を選び、各記事の要点と、それぞれの総括として筆者コメントを付記しました。
そして、日本の製造企業の次なる課題は、上記の「道しるべ」を参考に、「自社のものづくりビジョン」を‘国内視野’から‘グローバル視野’への転換を図ったうえで、個々の社員が、グローバル市場へ飛び出し、社内、国内、海外のこれまでの身内でなかった人々と、「セレンディピティ」流の交流を深め、知恵を出し合うなかで人を育て、「企業文化資本主義」の時代を躍進していかなければなりません。
参照:2010年2月15日更新;事例から学ぶ「企業文化資本」の勃興
しかし、これを実践していくためには、従来の慣行のしがらみから、社員が飛躍する行動を妨げる情報システムとか制度、評価基準の残滓が残っています。

7月のブログでは、その様な社員の行動の障碍と、それを解きはなし、むしろ行動をサポートするIT活用の事例を、紹介したいと思います。